いじめの内容証明の書き方、注意点

子どもに対する「いじめ」への対応を求めるために内容証明を送りたい、作成したい、という相談があります。

 

目的は「いじめを止めること」か「賠償や処分を求めること」か

いじめに関する内容証明の目的は、「いじめを止めること」「賠償や処分を求めること」のどちらかが多いでしょう。

「いじめを止めること」を目的とした内容証明

いじめが発生しても、本人同士や学校の先生の行動により、解決していれば内容証明を送る必要はありません。逆に言うと、いじめを止めるために内容証明を検討しているということは、かなり辛い状況だと思います。緊急性も高いでしょう。

また、いじめの明確な証拠がない場合(本人の証言しかない)などに、いじめがエスカレートする前に予防として内容証明を送ることもあります。

「賠償や処分を求めること」を目的とした内容証明

いじめが解決しても、ケガをさせられた場合の治療費、いじめによる精神的苦痛に対する損害賠償(慰謝料)、壊された物の弁償など、金銭的な請求をするために内容証明を検討することもあります。こちらも大変ですが、緊急性は上より少し下がるかもしれません。

 

まずは内容証明より、議事録を残す

いじめが起きた場合、まずは学校に相談することになると思います。

このとき、あとから「言った・聞いてない」「知らない・覚えていない」で揉めてしまうことが残念ながらあります。

念のため、録音しておくと安心かもしれません。ただ、録音されて気持ちが良い人はいませんし、先生の気分を悪くさせてしまうかもしれません。(敵対心を持たれる、という意味です) このため、録音はあとから「実はあのとき録音していて、証拠もあるんです…」など、使いにくいです。

他の方法として、話し合いの要点をあとで紙にして、先生にも確認してもらって、サインを貰うことが現実的です。これであれば、先生も把握している内容なので、関係の悪化は少ないはずです。また、「少し面倒な親だな…」とプレッシャーをかけることができます。議事録が面倒であれば、話し合いの要点をまとめて、先生のLINEに送っておくなども有効です。これであれば日時も記録できますし、わざわざサインを受け取りに会う必要もありません。(先生がLINEを教えてくれればですが)

議事録に残す要点

  • 話し合いの日時、場所、参加者
  • 自分たちがなにを認識しているか(日頃から〇君に悪口を言われている、今日、上履きがなくなった)
  • 学校側がなにを認識しているか(上履きがなくなったことは知っている。でも誰が何をしたかは不明。クラス内に聞いても不明。犯人捜しはできない。日頃のことは知らなかった)
  • いつまでになにを対応するか(明日までに、本人に聞く。その日に母親に報告する)

近年のいじめは、昔と違って、教室内で殴る蹴るではありません。小さなこと、誰がやったかは分からないことをしっかり記録しておくことが重要になってきます。

 

実際にあったケース

実際にあったケースをまとめてご紹介します。(プライバシー保護のため複数の案件をまとめ、脚色しています。フィクションです)

中学生の息子がクラスでいじめを受け、不登校になっています。最初は無視される程度だったらしいのですが、現在では悪口を言われたり、机にごみを入れられたり、上履きを隠されたり、体育のときにボールをぶつけられたりしています。親は子供が学校に行きたくないという時点で知りました。

すぐに学校の先生に相談したところ、当事者に確認してくれました。本人たちはいじめているつもりはなく、ボールをぶつけたことは申し訳ないと謝っているとのことでした。ゴミや上履きのことは知らない、自分たちではないそうです。悪口もケンカの延長と言っているそうです。学校としては、体育中のことは仕方ない。今後は注意深く見守る。息子が学校に行ったら彼らに謝罪させる。という回答でした。

しかし、同じクラスの子の母親(小学校のときからのママ友)からは、娘が言うには〇〇君がゴミを入れたりしたり、息子さんをからかっているのを知っている、いじめだと思っている、とのことでした。

学校の対応には納得できず、息子も彼らがいるなら学校に行きたくないと言っています。教頭先生にクラス替えを聞いてみても、難しいという回答でした。また、彼らの親と話し合いたくても、個人情報のため親の連絡先や住所は教えられない。直接、話すとトラブルになるので学校を通して欲しいとのことでした。しかし、先生は彼らの親に連絡するつもりはないようです。私が彼らと直接、話すこともダメだそうです。最初に先生に相談してから、もうすぐ1か月になります。だんたんと学校側も面倒そうになっていると感じます。

いじめられた側が学校に行けず、いじめた側がなにもないのは許せません。子供は公立の高校に進学するつもりでしたが、内申点に影響しないか心配です。いじめられた側の内申が下がり、いじめた側には影響がないのでしょうか。

いじめた側に、いじめによる慰謝料や謝罪を求めたいのですが、そうした内容証明を作成することは可能でしょうか??

 

※ 北海道の中学生のいじめ問題は「内申点」がポイントになります。東京などに比べて、私立の高校に進学するという選択肢が非常に少ないためです。特に、いじめた側の親が、「いじめを認めたら、子供の内申に大きく響くのではないか」という思いから、認めさせないこともあるようです。

 

学校や先生を信頼できるとは限らない

いじめの問題は、担任の先生や教頭先生の人間性(能力など)によって、大きく左右されます。非常に真剣に、スピード感を持って対応して貰えることもあれば、そうでないこともあります。

過去に教頭先生から「弁護士などに相談しているそうだが、そういう人より私たち(教頭)を信じて欲しい。あまり大事にしても、お子様が困るのではないか」と脅されたという方がいました。(あくまで伝聞なので、本当かどうかは分かりません。正確なニュアンスや前後も不明です)

学校や先生は運というか、かなり差があるように感じます。

また、ネットの情報と全然違う…と感じることも多いようです。例えば、ネット上には警察や市長に相談すべきなど書いていることもありますが、あまり現実的ではないと思います。あまり先生に「教育委員会が、警察が、市長が、市議会議員が、裁判が…」と言っても良いことにはならないです。そこまでするのであれば、発言の前に弁護士さんに依頼した方が安心です。

補足:学校の先生も忙しい中で、大変な努力をされています。立場上、双方に配慮しなければならない難しい立場です。不信感を持ってしまうこともあるかもしれませんが、敵対しても良いことはありません。協力できるように進めた方が良いと思います。

 

まずはこちらの要望をまとめる

まずは、誰に、なにを求めるのか、これからどうしたいのかをまとめましょう。例示します。

いじめた側に

  • 謝罪して欲しい
  • 慰謝料を払って欲しい、弁償して欲しい
  • 部活を辞めて欲しい
  • 二度と子供と〇〇しないという書類にサインして欲しい
  • 事実を知りたいので話し合いをして欲しい
  • 親にも一筆書いて欲しい

学校側に

  • いじめた生徒を出席停止にして欲しい
  • いじめた側に処分をして欲しい(内申点を下げて欲しい)
  • クラス替え(子供を別のクラスに)して欲しい
  • いじめの事実をまとめて学校内に周知して欲しい
  • 再発防止を文書で提出して欲しい

などを言われたことがあります。そして、それが実現可能なことなのか、専門家に相談して考えましょう。

 

証拠がすごく大切

もう経験されているかもしれませんが、いじめの問題は証拠(誰がやったか)が非常に重要です。そして、証拠を残すことは難しいです。ポイントは、誰がやったのかは不明でも、しっかり証拠や記録を増やしていくことです。

いじめと判断されにくい内容

  • 無視される(少人数)
  • 体育中や部活中に強いボールを当てられる

誰がやったのかの判断が難しい内容

  • 机にゴミを入れられる
  • 上履きや物を盗まれる、隠される
  • 掲示物を汚される、黒板に悪口を書かれる

いじめの証拠が残りやすい内容

  • LINEのグループなどで書き込み
  • Twitter(X)やInstagramなどへの書き込み
  • 殴られた、蹴られたなどを他の生徒や先生が見ている

対策

  • 常に録音する
  • 日記をつける
  • 写真を撮る、スクショを残す
  • 関係者の話をLINEなど文字の残る形で残す

 

内容証明を送るときの注意点

もし内容証明を送るのであれば、最低限、注意すべきことがあります。

憶測で書かない

最も重要なことは、憶測で書かないことです。相手がいじめを認めていても、すべてその人がやったのかを確認すべきです。「うちの子の財布が盗まれた」ことは事実であっても、内容証明を送る相手が認めていないのに「財布を取ったのも、いつも悪口を言っていたあなたなんじゃないですか」的なことを書いてはダメです。

関係ないことを書かない

相手の家庭環境や過去のことなど、いじめに直接、関係ないことを書いてもダメです。「ひとり親家庭で大変だと思いますが、しっかり子供を監督してください」「小学校のときにもいじめをしていたそうですが」などです。

権利義務や対象をしっかり確認する

相手がいじめを認めている場合には、慰謝料を請求できるかもしれません。法律的に精神的苦痛に対する損害賠償請求という権利があるためです。逆に言うと、相手がいじめを認めていない場合にはお金を求めるのは難しいです。まずはいじめの認定が必要です。

また、転校して欲しいなどは、応じる義務はないので難しいでしょう。あくまでお願いということになります。謝罪文を求めても、「すみませんでしたー。もう二度と息子さんとは会話しないので安心してくださーい」みたいのが送られてくるだけかもしれません。そもそも反省していない人に謝罪させても無意味です。

なにかを求める場合には、それがどういう権利義務を根拠にした話なのか、単にお願いなのか、を区別して考える必要があります。

脅さない

「〇〇しない警察にいう、訴える」など。正直、あまり意味も効果もありません。態度が悪化するだけです。「どうぞ好きにしてください」「こちらも〇〇します」と言われるだけです。

  • 争うことが目的ではありません。
  • いじめを止めさせること(そのために事実を明らかにすること)
  • これから安心して子供が学校に通えるようにすること
  • 損害があれば賠償させること

などが目的なはずです。本当に警察に相談する必要があれば、先にするべきです。訴えるなども、相手の回答を待ってから判断しても遅くないはずです。

 

侮辱や脅迫のリスクを受け入れる…?

上記に注意しないと、相手から「それは侮辱だ」「脅迫だ」などと別のトラブルになってしまう可能性があります。

ただ、あえて、そうしたリスクを承知で、証拠はないけれど内容証明を送りたい、という方もいます

確かに、学校と話し合い、証拠を得て、それから内容証明を送った方が無難です。しかし、いじめの問題は急を要することです。ここまでに非常に時間がかかります。

もし、こちらの行動が侮辱や脅迫にあたるとしても、相手がそれに対する賠償を求めるために弁護士さんに依頼したり、裁判したり…となればどんどん、大事(おおごと)になるわけです。そうすると、子供も安易にいじめを続けられるかというと、普通はそうではありません。仮に認められたとしても、こうしたケースでの侮辱や脅迫に対する慰謝料など、それほど高額ではないです。

もちろん、立場上、明らかに法律に違反するような行為は応援できません。しかし、いじめという重大な行為に対して、明確な証拠がなければなにもしてはダメ、とも思いません。ある程度の証拠や根拠があれば、リスクを承知の上で行動してみる…というのは理解できます。もし、自分がいじめられた親の立場であれば、そうした選択をするかもしれません。

 

解決したら、事実関係をまとめた書類を必ず作成する!!

内容証明は正直、重要ではありません。話し合いで和解できるのであれば、その方が良いです。どういう経緯であったにせよ、最も大切なことは、事実(いじめの詳細や経緯)を書面の残すこと、これから〇〇しないという約束をしっかり書面に残すことです。

書類には書類は「いじめた人との書類」と「学校側との書類」の2種類があります。

いじめた側との書類

口頭で「これからはいじめをしない」と約束するだけでは不安です。「いじめ」は人によって解釈が異なるためです。「これからは以前のように仲良くしたいのか、もう一切関わらないで欲しいのか」なども人によって異なります。

  • SNSやインターネット上にいじめに関することを書きこまない
  • 写真などあれば削除する
  • クラスメイトなどに、うちの子に関する指示をしない(みんなで無視しようなど)
  • いじめに関することを「親も」口外しない(親が余計なことを言いふらすことが多いです)

なども必要があれば書いた方が良いでしょう。念書や誓約書という書類になると思います。相手の親も「そちらも口外しないと約束して欲しい」ということであれば、合意書という形になることもあります。

学校側との書類

  • 学校側に、いじめの事実を周知して欲しいのか、内密にして欲しいのか
  • 他の生徒にどんなアクションを望むのか、望まないのか
  • クラス分けは今後、どうなるのか。彼らを一緒のクラスにしないと約束してくれるか
  • 今後、どのような防止対策をするのか

などが考えられます。しかし、学校側は、立場上、すぐにサインしてくれない可能性があります。表向きに約束できることと、そうでないことがあるためです。そのあたりは非常に曖昧です。

ただ、どうせ、学校側にはお願いしかできないので、そこは拘らなくてもいいとも思います。その約束が破られたところで、サインした担任や教頭や校長を訴えても仕方ないですし、そんなことしないですよね。要望書や確認書という形で、学校側に手渡す…という選択肢もあるでしょう。

こうした書類はネットなどを参考に作ること自体は簡単です。なぜなら、それが間違っていても、誰も気づかないからです。その書類が必要なときになって初めて、それに意味がないことや、間違っていることに気づきます。効力のほとんどない書類にサインさせるために、無駄な労力や争いが生じることもあります。

こうした書類は「誰にどういう目的があって」「その約束が破られたときに何ができるのか」が重要です。

 

弁護士さんに依頼することも選択肢に

ここまでいろいろと書きましたが、いじめの問題は非常に難しいです。まずはお近くの弁護士さんに相談しながら対応し、場合によっては依頼することも検討してみてはいかがでしょうか。